宮部 みゆき 著
新人物往来社 (2005.6)
讃岐国丸海藩――。
この地に、幕府の罪人・加賀殿が流されてくることに。
海うさぎが飛ぶ夏の嵐の日、加賀殿の所業をなぞるかのように不可解な毒死や怪異が小藩を襲う…。
ほう、という少女が江戸の大店から金毘羅様参りとして遣わされます。
讃岐国丸海藩は金毘羅様のすぐ隣の藩で、ほうは船酔いで同行していた一行から抜けて丸海の木賃宿に宿泊した所でお付の女中に置き去りにされます。
ほうはの後、 この丸海で医師の家で養われる事になるのですが、思いもかけない大きな事に巻き込まれます。
宮部みゆきさんの時代小説、市井の人を主人公にした話が多いです。
この「孤宿の人」は今までの話と少し感じが違います。
今回は市井の人の目で物語を追いますが、市井の人は振り回される役回りです。
まず、何も悪いことをしていない町人も死にますし、武士も側杖食って死んだりします。
…と言うより重要なキャラもかなーり死ぬんですよ、これが。
幕府の罪人で讃岐へ流されてくる加賀殿は、「鬼、悪霊である」と噂されていて、また加賀殿の到着と共に色々と不気味な事が続く訳です。
ちなみに伝奇小説ではないですので、加賀殿はエスパー的な力を持っていて…という話ではないです。
加賀殿とほうの交流、優しくて切ないです。
「鬼も悪霊も、生身の人だということだよ」 悪霊の加賀殿という格好の言い訳に隠れることのできる、千載一遇の好機に色々な思惑がうごめき、その上に畏れや、恐怖や、不安がかぶさります。
暖気と寒気がせめぎ合い雷雲が湧くように、雷が落ち土砂降りの雨が降るまでは不穏で怪しげなものはおさまらない感じです。
ひと一人の思惑はかすみます。
ひと一人の命もたやすく消えてしまいます。
暑い日に、湿気を伴い、雷雲がだんだん育つ不穏な空気…物語はそういった不穏なものが育ち、最後に一気に雷が炸裂するまで、炸裂した後の静寂までを一気にたどる感じです。
とても哀しいものを含みながら、良い話でしたー。